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「スキルアップセミナー」
12月17日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は山本和利である(3回シリーズの初回)。テーマは「臨床推論 理論と実践」で,参加者は8名。
要旨
・医師が経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下すヒューリスティックはツボに嵌ると効率がよいが、間違ってしまうことがある。そのような過ちに陥らないためにベテラン医師が行う診断のプロセスは、仮説・演繹法である。
・病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。
・検査前確率を経験や文献から数値化する。
・治療で得られる利益と治療がもたらす不利益を想定して、治療域値を計算する。
・治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないとき,検査をする。
・陽性または陰性であるときの検査後確率を、検査前確率、感度、特異度(または検査前オッズと尤度比)から算出する。
・検査後確率を治療域値と勘案して治療を選択する。
・患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す。
診断のプロセス、1)パターン認識法、2)アルゴリスム法、3)仮説・演繹法、4)徹底的検討法の4つのパターンを説明。
医師がこれまでの経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下す方法をヒューリスティック(heuristic)、そして、それに付きまとう代表性バイアス(典型的な症状で診断を決める)、利用しやすさバイアス(すぐ思いつく診断に飛びつく)、係留・調整バイアス(一度決めた可能性にこだわり続ける)を説明。
病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。ベイズ(Bayes)の分析方法を説明した。
事例のopening statementは、「亜急性の背部痛、下肢・膝関節上部痛で受診した避妊ピル内服中の29歳女性」。この情報から、4chest pain killers の一つである肺塞栓症(解剖学的:肺、病態生理的:血管性)を第一に考慮して話を進める。もちろん、しっかり問診をとって、合わせて急性冠症候群、緊張性気胸、解離性大動脈瘤、食道破裂、心タンポナーゼ等を除外する必要はある(must rule out)。
まず、肺塞栓症の可能性(検査前確率)を何%であるか想定(数値化)をする。問診と身体診察で肺塞栓を除外するルール(pulmonary embolism rule-out criteria:PERC)を取り上げた論文で事前確率を検討する。8項目(50歳以上、脈拍100 /分以上、SpO2が95%以下、血痰、避妊ピル内服、深部静脈血栓症の既往、4週以内の手術・外傷、片側下肢の腫脹)すべて当てはまらない場合はPERC陰性、一つでもあればPERC陽性とする。文献によるとPERC陰性では有病率6.4%、PERC陽性では11.3%であった。この患者は、「避妊ピル内服」「下肢の浮腫」の2項目が当てはまる。PERC陽性なのでそれを参考にして検査前確率を約10 %と想定した。
ここで則、治療すべきかどうかを検討。
治療により得られる利益が、それによって被る損失よりはるかに大きければ、その疾患の可能性が低くとも行うだろうし、利益よりも損失が大きければ治療を控えることになる。
0 t:threshold 1.0
↑ (0<t<1.0)
ここで、実際にどのくらいの病気の可能性があったら治療を始めるか(治療域値:t)を説明。詳細は省略。
当該疾患の患者の利益をB、当該疾患でない者の損失をCと表現すると、治療閾値(t)はBとCの割合によって決まるとも言うことができる。結論としては、t=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。
PERC論文では、B/Cを生存率から推測して、肺塞栓症の治療閾値(t)=1/[(B/C)+1]=1/(49+1)=0.02と計算している。肺塞栓症である検査前確率を0.02以上と考えれば,治療をすべきであるという結論になる。
しかしながら,すぐに治療した方がよいと言われても,病気の可能性が低い場合にはなかなか実行しにくい.そこで大部分の医師は診断の確率を上げるか下げることができる簡便な検査をしてから治療するかどうかの決断することになる。
陽性または陰性であるときの病気の確率(検査後確率)は、感度、特異度に加えて、検査前確率の3つがわかれば計算できる。
D-ダイマーの肺塞栓症に関する感度は95%,特異度は50%であるので、これらの数値を用いて2×2表を用いて検査後確率を求める。
2×2表による計算
表Bから、検査後確率はD-ダイマーが陽性であれば0.17(17%)、陰性であれば0.01(1%)ということになる。
D-ダイマーが陽性であると、治療域値2%を明らかに超えているので、医師としては治療を選択することになる。
次に患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す(shared decision making)。
実際には、エコー検査で深部静脈血栓症の確認を死、造影CTで肺動脈の血栓を確認する。
治療は、抗凝固療法を行い、ピル内服中止を指導することになろう。
参考文献
1) Kassirer JP, et. al. Learning Clinical Reasoning second edition. Boltimore: Lippincott Williams & Wilkins, 2010.
2) Kline JA, et al. Prospective multicenter evaluation of the pulmonary embolism rule-out criteria. J Thromb Haemost. 2008;6(5):772-780.
3) Hugli O, et al. The pulmonary embolism rule-out criteria (PERC) rule does not safely exclude pulmonary embolism. J Thromb Haemost. 2011;9(2):300-304.
4) Sox HC et.al: Medical Decision Making,Boston,Butterworths,1988.
5) Pauker SG and Kassirer JP: Therapeutic Decision Making; A Cost-Benefit Analysis :New England Jounal of Medicine.1975; 293:229-234.
6) Fletcher RH, et al. Clinical epidemiology The essentals third edition, Baltimore:Williams & Wilkins,1996.
12月17日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は山本和利である(3回シリーズの初回)。テーマは「臨床推論 理論と実践」で,参加者は8名。
要旨
・医師が経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下すヒューリスティックはツボに嵌ると効率がよいが、間違ってしまうことがある。そのような過ちに陥らないためにベテラン医師が行う診断のプロセスは、仮説・演繹法である。
・病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。
・検査前確率を経験や文献から数値化する。
・治療で得られる利益と治療がもたらす不利益を想定して、治療域値を計算する。
・治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないとき,検査をする。
・陽性または陰性であるときの検査後確率を、検査前確率、感度、特異度(または検査前オッズと尤度比)から算出する。
・検査後確率を治療域値と勘案して治療を選択する。
・患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す。
診断のプロセス、1)パターン認識法、2)アルゴリスム法、3)仮説・演繹法、4)徹底的検討法の4つのパターンを説明。
医師がこれまでの経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下す方法をヒューリスティック(heuristic)、そして、それに付きまとう代表性バイアス(典型的な症状で診断を決める)、利用しやすさバイアス(すぐ思いつく診断に飛びつく)、係留・調整バイアス(一度決めた可能性にこだわり続ける)を説明。
病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。ベイズ(Bayes)の分析方法を説明した。
事例のopening statementは、「亜急性の背部痛、下肢・膝関節上部痛で受診した避妊ピル内服中の29歳女性」。この情報から、4chest pain killers の一つである肺塞栓症(解剖学的:肺、病態生理的:血管性)を第一に考慮して話を進める。もちろん、しっかり問診をとって、合わせて急性冠症候群、緊張性気胸、解離性大動脈瘤、食道破裂、心タンポナーゼ等を除外する必要はある(must rule out)。
まず、肺塞栓症の可能性(検査前確率)を何%であるか想定(数値化)をする。問診と身体診察で肺塞栓を除外するルール(pulmonary embolism rule-out criteria:PERC)を取り上げた論文で事前確率を検討する。8項目(50歳以上、脈拍100 /分以上、SpO2が95%以下、血痰、避妊ピル内服、深部静脈血栓症の既往、4週以内の手術・外傷、片側下肢の腫脹)すべて当てはまらない場合はPERC陰性、一つでもあればPERC陽性とする。文献によるとPERC陰性では有病率6.4%、PERC陽性では11.3%であった。この患者は、「避妊ピル内服」「下肢の浮腫」の2項目が当てはまる。PERC陽性なのでそれを参考にして検査前確率を約10 %と想定した。
ここで則、治療すべきかどうかを検討。
治療により得られる利益が、それによって被る損失よりはるかに大きければ、その疾患の可能性が低くとも行うだろうし、利益よりも損失が大きければ治療を控えることになる。
0 t:threshold 1.0
治療しない | 治療する |
ここで、実際にどのくらいの病気の可能性があったら治療を始めるか(治療域値:t)を説明。詳細は省略。
当該疾患の患者の利益をB、当該疾患でない者の損失をCと表現すると、治療閾値(t)はBとCの割合によって決まるとも言うことができる。結論としては、t=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。
PERC論文では、B/Cを生存率から推測して、肺塞栓症の治療閾値(t)=1/[(B/C)+1]=1/(49+1)=0.02と計算している。肺塞栓症である検査前確率を0.02以上と考えれば,治療をすべきであるという結論になる。
しかしながら,すぐに治療した方がよいと言われても,病気の可能性が低い場合にはなかなか実行しにくい.そこで大部分の医師は診断の確率を上げるか下げることができる簡便な検査をしてから治療するかどうかの決断することになる。
陽性または陰性であるときの病気の確率(検査後確率)は、感度、特異度に加えて、検査前確率の3つがわかれば計算できる。
D-ダイマーの肺塞栓症に関する感度は95%,特異度は50%であるので、これらの数値を用いて2×2表を用いて検査後確率を求める。
2×2表による計算
検査前確率0.1 |
肺塞栓症 |
検査後確率 | ||
あり | なし | |||
D-ダイマー | 陽性(>500) | 95 | 450 | 95/545=0.17 |
陰性(0-500) | 5 | 450 | 5/455=0.01 | |
100 | 900 | 1000 |
D-ダイマーが陽性であると、治療域値2%を明らかに超えているので、医師としては治療を選択することになる。
次に患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す(shared decision making)。
実際には、エコー検査で深部静脈血栓症の確認を死、造影CTで肺動脈の血栓を確認する。
治療は、抗凝固療法を行い、ピル内服中止を指導することになろう。
参考文献
1) Kassirer JP, et. al. Learning Clinical Reasoning second edition. Boltimore: Lippincott Williams & Wilkins, 2010.
2) Kline JA, et al. Prospective multicenter evaluation of the pulmonary embolism rule-out criteria. J Thromb Haemost. 2008;6(5):772-780.
3) Hugli O, et al. The pulmonary embolism rule-out criteria (PERC) rule does not safely exclude pulmonary embolism. J Thromb Haemost. 2011;9(2):300-304.
4) Sox HC et.al: Medical Decision Making,Boston,Butterworths,1988.
5) Pauker SG and Kassirer JP: Therapeutic Decision Making; A Cost-Benefit Analysis :New England Jounal of Medicine.1975; 293:229-234.
6) Fletcher RH, et al. Clinical epidemiology The essentals third edition, Baltimore:Williams & Wilkins,1996.
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「12月の三水会」
12月19日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。他:6名。
研修医から振り返り2題。
ある研修医の経験症例。90歳代男性の気胸、肺炎、トロッカー挿入。基礎疾患がないのか?宿主の免疫を考慮して抗菌薬を判断する。60歳代男性、糖尿病で入院させインスリンを導入したが、自己退院。20歳男性のマイコプライマ肺炎。マクロライド耐性菌では?80歳代男性、RA+間質性肺炎患者が呼吸困難に自己判断でHOTの酸素を上げた。ステロイドパルス療法に反応せず、間質性肺炎が進み、死亡。真菌、サイトメガロ、ニューモシスティス等ではなかったか?高校生の気胸、胸腔ドレナージ。精神疾患をもつ70歳代女性。肺結核と診断。60歳代男性、便秘で精査した後腹膜巨大腫瘍。ノロウイルス感染症。慢性咳の30歳代男性、クラリスで軽快。
NSAIDs、プラザキサで出血性胃潰瘍を起こした70歳代女性。認知症、糖尿病、精神疾患あり、入浴をしていない。ネグレクト状態。37.3℃、BP:94/64mmHg, HR;100/m, SpO2:98 %, RR:16/m,呼吸;正常。両下肢浮腫。疼痛、発赤を伴う感染病巣あり、WBC;19000,Afであった。心不全、蜂窩織炎と判断。NSAIDsとCEZ1g×2回で経過観察。改善が見られず、ユナシンを使用。CHADSスコア4点でプラザキサを使用。その後、食欲無くなり、内視鏡で出血性胃潰瘍と判明。
コメント:ピロリ菌の検索は必要。NSAID潰瘍の予防にはPPI(保険適応がない).老人へのNSAIDは要注意。
ある研修医。中学生の感冒薬大量服薬による自殺未遂を報告(詳細略)。
ある初期研修医の経験症例。緑内障発作。吐血・黒色便の70歳代男性、マロリー・ワイス症候群。40歳代女性の右下腹痛、虫垂炎を疑ったが憩室穿孔であった。60歳代男性、発熱、意識障害、大腸菌による菌血症であった。侵入経路は何か?80歳代女性、入院中の血便、小腸出血であった。50歳代女性、上肺野の肺炎。結核の可能性はないのか?
コメント:髄液のタンパクが正常であれば髄膜炎は否定できる。
78歳女性、胸部違和感、意識障害。糖尿病、狭心症の既往。呼吸数26回/分、上肢の握力低下。心電図に変化なし。心筋逸脱上昇なし。WBC;12000,経過観察を決めた。念のため頭部CTを撮影したら、くも膜下出血であった。水頭症をきたしていた。三次病院で脳動脈瘤が見つかり、緊急クリッピング術となった。
路上に倒れていた中年男性が救急外来にかつぎ込まれて着た。34.2℃。頭部の坐創あり。頭部CTは異常なし。WBC;20000,CTで胸腰椎圧迫骨折。血圧低下。心電図に異常なし。頭部CTを再度撮影し、くも膜下出血であった。三次病院に搬送。外傷性くも膜下出血は手術しないと。
クリニカル・パール; くも膜下出血イコール人生最大の痛みとは限らない。6-12時間後までの頭部CTの感度は97%。判断が困難なときは腰椎穿刺を行う(感度93%、特異度95%)。
(山本和利)
12月19日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。他:6名。
研修医から振り返り2題。
ある研修医の経験症例。90歳代男性の気胸、肺炎、トロッカー挿入。基礎疾患がないのか?宿主の免疫を考慮して抗菌薬を判断する。60歳代男性、糖尿病で入院させインスリンを導入したが、自己退院。20歳男性のマイコプライマ肺炎。マクロライド耐性菌では?80歳代男性、RA+間質性肺炎患者が呼吸困難に自己判断でHOTの酸素を上げた。ステロイドパルス療法に反応せず、間質性肺炎が進み、死亡。真菌、サイトメガロ、ニューモシスティス等ではなかったか?高校生の気胸、胸腔ドレナージ。精神疾患をもつ70歳代女性。肺結核と診断。60歳代男性、便秘で精査した後腹膜巨大腫瘍。ノロウイルス感染症。慢性咳の30歳代男性、クラリスで軽快。
NSAIDs、プラザキサで出血性胃潰瘍を起こした70歳代女性。認知症、糖尿病、精神疾患あり、入浴をしていない。ネグレクト状態。37.3℃、BP:94/64mmHg, HR;100/m, SpO2:98 %, RR:16/m,呼吸;正常。両下肢浮腫。疼痛、発赤を伴う感染病巣あり、WBC;19000,Afであった。心不全、蜂窩織炎と判断。NSAIDsとCEZ1g×2回で経過観察。改善が見られず、ユナシンを使用。CHADSスコア4点でプラザキサを使用。その後、食欲無くなり、内視鏡で出血性胃潰瘍と判明。
コメント:ピロリ菌の検索は必要。NSAID潰瘍の予防にはPPI(保険適応がない).老人へのNSAIDは要注意。
ある研修医。中学生の感冒薬大量服薬による自殺未遂を報告(詳細略)。
ある初期研修医の経験症例。緑内障発作。吐血・黒色便の70歳代男性、マロリー・ワイス症候群。40歳代女性の右下腹痛、虫垂炎を疑ったが憩室穿孔であった。60歳代男性、発熱、意識障害、大腸菌による菌血症であった。侵入経路は何か?80歳代女性、入院中の血便、小腸出血であった。50歳代女性、上肺野の肺炎。結核の可能性はないのか?
コメント:髄液のタンパクが正常であれば髄膜炎は否定できる。
78歳女性、胸部違和感、意識障害。糖尿病、狭心症の既往。呼吸数26回/分、上肢の握力低下。心電図に変化なし。心筋逸脱上昇なし。WBC;12000,経過観察を決めた。念のため頭部CTを撮影したら、くも膜下出血であった。水頭症をきたしていた。三次病院で脳動脈瘤が見つかり、緊急クリッピング術となった。
路上に倒れていた中年男性が救急外来にかつぎ込まれて着た。34.2℃。頭部の坐創あり。頭部CTは異常なし。WBC;20000,CTで胸腰椎圧迫骨折。血圧低下。心電図に異常なし。頭部CTを再度撮影し、くも膜下出血であった。三次病院に搬送。外傷性くも膜下出血は手術しないと。
クリニカル・パール; くも膜下出血イコール人生最大の痛みとは限らない。6-12時間後までの頭部CTの感度は97%。判断が困難なときは腰椎穿刺を行う(感度93%、特異度95%)。
(山本和利)
11月21日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。他:7名。
研修医から振り返り2題。
ある研修医。長引く咳の0歳児。扁桃腺培養で百日咳。急性胃腸炎後の低血糖の4歳児。ケトン陽性。アセトン血性嘔吐症。ノロウイルスとロタウイルスの重複感染。発熱、嘔吐、腹痛で受診した21歳男性。McBurney圧痛あり、虫垂炎の疑い。腹痛・便秘の81歳男性。腹部に腫瘤。排便で軽快。サバすし摂取後の眼瞼腫脹。ヒスタミン中毒の疑い。4日間続く咽頭痛、発熱の20歳台女性。ウイルス性(EB,HIVを考慮)。めまいが主訴の60歳台女性。Epley法で改善。前日からの臍周囲の腹痛を訴える50歳の男性。CTで小腸壊死。開腹手術となる。Non-occlusive mesenteric infarctionであったか。
80歳代女性。ある肺炎の一例。咳、喀痰。慢性C型肝炎、高血圧の既往。38.1℃、BP:94/64mmHg, HR;80/m, SpO2:92%, RR:16/m,呼吸音減弱。WBC;1200,Hb:10.7, PLT:10万、BUN:36, Na;128, K;2.9, CRP;13, TSH:42,D-dimer:1.6、XP:左肺に浸潤影。胸水を認める。喀痰でグラムを施行し、抗菌薬を開始。甲状腺機能低下状態と判断し、チラージンも処方。降圧薬を中止した。喀痰吸引を継続。痰つまりが強く、SpO2が低下する。心肺停止となり、気管内挿管をし、ICUへ移動。喀痰からクレブジエラ菌を検出。敗血症が考えられた。一時的に蘇生したが、最終的に家族に見守られながらなくなった。クレブジエラ肺炎による肺炎と考えた。急激に病状が悪化したことに驚いた。初期データから敗血症への移行が予測されたにも関わらず、対応が遅れてしまった。早期にICUに入室させるべきであった。
クレブジエラ肺炎:重症化しやすい。院内感染症、免疫不全患者に多い。COPDなどへの2次感染も多い。高齢者では敗血症、死亡例が多くなる。抗菌薬耐性菌が増えている。カルバペネム系抗菌薬を使う。
クリニカル・パール;肺炎では重症度を判定し、予後不良例では速やかにICU管理とする。
コメント:肺炎というより膿胸であったのではないか。胸水穿刺をすべきであった。肺と交通しているのではないか。
ある研修医。入院症例。尿路感染症の80歳代女性。PEG後に症状改善。糖尿病、蜂か織炎。Afでプラダキサ、ロキソニン内服中であったが、胃潰瘍出血を起こした。抗潰瘍作用があるのは、PPIとサイトテック。風呂で溺れた高齢女性。両肺野肺炎、肺水腫と診断。非定型肺炎と心不全と診断し治療(クラリスロマイシンと利尿剤)で改善。溺れた原因は何か?風呂の中で失神したのではないか?AMIの可能性はなかったのか。失神の原因の大部分は心臓由来である。発熱、胸膜炎の高齢女性。喘鳴が続いている。SpO2が低い。拘束性障害であったが、結核はない。家族が自宅で看護できなくなった脳転移を来たした肺がん末期患者。膝痛の高齢男性。偽痛風と診断。心窩部痛あり、胃癌による多発肝腫瘍が見つかる。COPDが基礎にある肺炎。外来患者:腹痛主訴の患者、たまたま撮ったCTで腹水、肝臓委縮があり、肝硬変であった。血管や門脈奇形はなかったか?虫垂炎と診断し手術となった患者。
非ホジキンリンパ腫で緩和ケアを行った70歳台の女性。Af,嗄声で耳鼻科を受診し非ホジキンリンパ腫と診断された。化学療法を施行。放射線療法。気管切開と腸瘻が造設されている。皮下結節が多数。CTで気管食道瘻がある。皮下腫瘤多数。胸水あり。家族は早期の終結を望んでいる。
緩和ケア専門医はいない。利尿剤、フェントステープを使用。身の置き所のない倦怠感にリンデロンを開始。塩酸モルヒネを増量。腸瘻からIVH管理に変更。不穏もみられたか最終的に死亡。
コメント:最後にIVH管理にする必要があったのか。皮下点滴でよかったのではないか。経験を積んでくると、何もしなくなる傾向がある。(最後だけモルヒネの持続皮下注入くらいである)。
ニポポ卒業生が研究について相談のため参加。
30歳台女性。4年前に右の自然気胸。保存療法で軽快。今回、自然気胸の再発(50%の虚脱)。脱気のためチューブを挿入。翌日未明に呼吸苦。ドレナージから血液が洩れて来る。HR:120/m、BP:100/70mmHg、SpO2:90%,経過観察3時間後、HR:150/m,顔面蒼白。胸腔穿刺した。緊張性気胸であった。緊急手術で事なきを得たが、癒着が剥がれた怖い事例であった。
クリニカル・パール;気胸にドレナージをしても安心しないこと。
前回報告があった、数カ月かけて動けなくなった80歳代女性(プレドニン10mg、アザルピジン内服中。両下肢に紫斑がある。下肢の筋力が明らかに低下。WBC;20000、CRP;20。)のその後。血管炎、悪性関節リウマチ(リウマチ血管炎)であった。
今回は卒業生が参加してくれ、経験を披露してもらいながら、適切な指導をしてくれた。(山本和利)
2012年の北海道家庭医療フオーラムで亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男氏の講演を拝聴した。
これからの医療に必要な医師の能力用
1.疾病負荷(disease burden)
・WHOのレポート
・死亡上位原因:悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患、自殺、肺炎である。
メタボリック・ドミノ:生活習慣、肥満、糖尿病、高血圧、喫煙、から疾病に向かう。
本当の死因:喫煙、不適切な食生活、アルコールである。40%に寄与。
社会で必要なことは、非伝染性疾患の厳格な管理のできる医師。「効果的に健康な生活習慣を導き、維持できる医師」
がん検診の受診率は20%である。がん検診、癌予防接種は誰が勧めるのか?がん家族の検診は?
・障害上位原因:うつ病、虚血性心疾患、脳卒中、(女性では精神疾患が上位を占める)
ジェネラリストがメンタル・ヘルスを行う必要がある。
・健康の社会的決定因子
貧困、経済格差、友人のネットワーク、地域の犯罪率、失業率、(国保加入者の平均給与80万円、老人の医療費80万円)
・高齢化の穏やかな津波
2030年問題。在宅での看取り問題。47万に看とりの場所がない。日本の高齢化は特別である。老年症候群(認知症、転倒、失禁、うつ)
・複数の健康問題
聖路加病院では患者一人で4.6個の疾患を持ち、4.3科を受診する。当直をどうする。専門医では対応できない。
2.プライマリ・ケアの原理
・医療の窓口
・継続性
・包括性
・ケアの調整、連携
米国では家庭医がいなくなると58%無医地区が増える。
3.プライマリ・ケアのエビデンス
・医療費が33%安くなる。
・WHOはプライマリ・ケアの必要性を訴えている。
4.これから何をやっていかなければならないか
・源流を遡る医療(溺れる人を助けることも大事だが、川に落ちないように上流に橋を架けることの方が大事)
・『7つの習慣』という本の中で、第2領域という概念を紹介している。
第2領域:緊急ではないが重要な業務(慢性疾患、予防、増進、緩和ケア)をやらなければならない。「攻める家庭医療」を強調。2・3次予防から1次予防へ。
・総合医・家庭医は必要
・数が必要
・多くの人に役立つ医師になりましょう、という言葉で締めくくられた。(山本和利)
2012年の北海道家庭医療フオーラムが札幌駅前のアスティ45において開催された。
参加者は81名。
山本和利の挨拶、企画者の寺田豊氏の進行説明の後、WSが始まった。
前半は北海道医療センターの村井紀太郎氏、八藤英典氏、勤医協余市診療所の瀬野尾智哉氏、加藤利佳氏が主導しながら始まった。ひとつのシナリオに異なった3施設の医師が、家庭医のアプローチで挑む斬新的な試みである。
村井紀太郎氏の「患者中心の医療」セッション。
53歳女性、ニポポさん。咽頭痛で受診。実母と夫の3人暮らし。ここでシナリオを使ったロールプレイ。研修医役は医学部3年生、ナレーターは看護師さん、患者役も看護師さん。医療面接開始。溶連菌感染を心配している。咳、鼻水。スライドに喉の写真。Centorスコア0点なので「風邪」と診断。しかしながら患者さんは「抗菌薬を希望」。
ここで各グループで感想を出し合う。「患者さんに納得してもらうのは難しい」「患者さんの思いを訊き出していない」ここで、上級医からの指導。Ian McWhinneyの患者中心の技法を解説。エビデンス:治療の集約性やQOLが改善(Ferrer 2005)、心理側面の理解が向上(Gulbrandsen 1997)、コミュニケーションへの満足度が向上(Jaturapatpon 2007)、信頼感と治療へのアドヒアランスが向上(Fiscella 2004)、等言われている。
6つの要素を説明。(疾病・病いの両面を探る、全人的に理解する、共通基盤を作る、良好な人間関係の構築、予防を重視、現実的に対応)。特に「疾病・病いを探る」の具体的方法を提示。
か:解釈、考え
き:期待
か:感情
え:影響
Context:患者・家族・地域・社会を含め全人的に理解する。
最初の医療面接では、共通基盤が築けなかった。
その後の面接。「同僚が溶連菌感染で、抗菌剤で軽快した。孫に感染させるのが心配」「ストレプト検査を提案し実行したところ、結果は陰性」「患者は安心して帰宅した。」その後、咽頭違和感が続き、継続受診している。
続いて、瀬野尾智哉氏の「家族指向のケア」セッション。
家族図を提示。孫が重い心臓病で、娘(シングル・マザー)はかかりっきり。患者が10ヶ月の孫の世話をしている。
家族面談をする。家族図・家族ライフサイクルを用いて仮説を立てる。
1.ジョイング、2.ゴールの設定、3.問題点についての話し合い、4.プラン作り、5.質問を促す。
面談後の作業
・面談表の記入(出席者、問題点、プラン)
・家族の見直しと変更点・追加点の記入
成功させるポイント
・アイメッセージで悪者を作らない。
・参加者の辛い状況に十分共感する。
・「意見の引き出し」と「交通整理」のバランスをとる。
ここでシナリオに基づいて15分間のロールプレイ。意見発表。
続いて、加藤利佳氏の「アウト・リーチ」セッション。
アウト・リーチとは、病院や診療所で待っているだけでは介入できないunderserved populationを同定・分析し、健康増進のために「手を伸ばす」という考え方である。予防医医学、教育、地域の健康増進など様々な内容が含まれる。
underserved populationとは?
IQが低い、低所得者、外国人、身体障害者、学歴が低い、地理的に不便、等。
今回は母子家庭に注目。母子家庭は全国75万世帯。平均収入291万円。帰宅時間が遅い。祖父母が養育。教育、しつけ、健康、食事影響が悩み。こどもが風邪をひいたときで考えてみる。underservedとなる理由:経済的、時間的問題、面倒をみてくれる人がいない、内服管理ができない、予防接種が遅れる、衛生環境が悪い、妻・奥さんとしての役割、父親としての役割から隔絶されている。(個人では管理できない社会状況の影響を受けている。)
アプローチ
開院時間を夜遅くする、土日の診療を増やす、予防接種率を上げる工夫、健康フェスタを開催、性教育の工夫、家庭訪問をする。
後半は道内の家庭医養成コースをもつ後期研修プログラム担当者から
施設と研修内容についてのプレゼンテーションが行われた。特別講演の後、講演者を中心にパネルディスカッションが行われた。
その後は軽食を取りながらの懇親会となり、打ち解けた雰囲気の中で学生と医師の情報交換が行われた。(山本和利)
1.ジョイング、2.ゴールの設定、3.問題点についての話し合い、4.プラン作り、5.質問を促す。
面談後の作業
・面談表の記入(出席者、問題点、プラン)
・家族の見直しと変更点・追加点の記入
成功させるポイント
・アイメッセージで悪者を作らない。
・参加者の辛い状況に十分共感する。
・「意見の引き出し」と「交通整理」のバランスをとる。
ここでシナリオに基づいて15分間のロールプレイ。意見発表。
続いて、加藤利佳氏の「アウト・リーチ」セッション。
アウト・リーチとは、病院や診療所で待っているだけでは介入できないunderserved populationを同定・分析し、健康増進のために「手を伸ばす」という考え方である。予防医医学、教育、地域の健康増進など様々な内容が含まれる。
underserved populationとは?
IQが低い、低所得者、外国人、身体障害者、学歴が低い、地理的に不便、等。
今回は母子家庭に注目。母子家庭は全国75万世帯。平均収入291万円。帰宅時間が遅い。祖父母が養育。教育、しつけ、健康、食事影響が悩み。こどもが風邪をひいたときで考えてみる。underservedとなる理由:経済的、時間的問題、面倒をみてくれる人がいない、内服管理ができない、予防接種が遅れる、衛生環境が悪い、妻・奥さんとしての役割、父親としての役割から隔絶されている。(個人では管理できない社会状況の影響を受けている。)
アプローチ
開院時間を夜遅くする、土日の診療を増やす、予防接種率を上げる工夫、健康フェスタを開催、性教育の工夫、家庭訪問をする。
後半は道内の家庭医養成コースをもつ後期研修プログラム担当者から
施設と研修内容についてのプレゼンテーションが行われた。特別講演の後、講演者を中心にパネルディスカッションが行われた。
その後は軽食を取りながらの懇親会となり、打ち解けた雰囲気の中で学生と医師の情報交換が行われた。(山本和利)
プロフィール
北海道の地域医療を支える総合診療医の養成を目指す後期研修プログラム「ニポポ」を支える北海道プライマリ・ケアネットワーク代表理事のブログです。
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