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『Essential Medical Facts Every Clinician Should Know』(Robert B. Taylor著、
Springer、2011 )を読んでみた。
著者は家庭医療学の大御所である。
冒頭、マンモグラフィを受けていた患者が痙攣を起こした事例を紹介している。現在、多くの医療機関でこの検査の際に大量のリドカインのゲルを使用しているが、大量のリドカイン塗布によって、不整脈や痙攣、呼吸困難、昏睡、死を招くことがある。
米国では毎年10万人の患者が、医療事故が原因で死亡しているそうだ。それが入院患者の5-10%に起こっている。正確な診断や治療がなされれば免れたかもしれない死亡が剖検例の5%にみられたという。薬による副作用で救急外来を訪れた数は年間4百万人である。医師自身もその害を受けており、2002年のBlendonらの報告では、831名の医師を調査したところ、その35%が本人または家族が害に遭遇したとある。
本書は、これまで医学の常識と思われたことや警告兆候(red flag signs)について、文献を渉猟し執筆されている。1テーマが約半頁にまとめられ、1~8の参考文献がついている。毎日、少しずつ読むのに便利である。第2章のChallenging current medical misconceptionsを読むと、常識と思い込んでいたことが、文献上は根拠がないとされていて驚くこともある。(山本和利)
8月17日、札幌医科大学において三水会が行われた。
参加者は10名。
松浦武志助教が司会進行。
初期研修医:2名。
後期研修医:5名。
他:3名。
研修医から振り返り6題。
ある研修医。
確定診断がつかずICに苦慮した一例。84歳の女性。悪寒、発熱、腹痛で夜間外来を受診。炎症反応CRP高値。エコーで胆管拡張。黄疸なし。造影CTで左肝内胆管拡張。CA19-9;1590。胆管癌が疑われた。血液培養:E.Coli陽性。
画像上胆管癌を示唆する所見が得られず。様々な検査後、診断的治療として肝左葉切除術をすることになった。家族との話し合いで、本州でセカンド・オピニオンを受けることを勧めたら、受け入れられた。
CA19-9高値を示す疾患をレビュー。インターネット・レベルなのでここでは略す。
PETはしなかったのか?
膵臓嚢胞の場合、どうするか? 手術をする、しないで意見が分かれた。
ある研修医。
食欲不振の90歳代男性のその後。SSRIが有効で食欲が出て来た。
誤嚥性肺炎を繰り返す72歳男性。PEG造設。自宅へ帰ると発熱。近くに家族がいない。病院に来ない。施設での対応は不可能。家族に連絡し来院を促す。「延命治療はしない」という方針を家族が決めて来た。では、どこまで撤退するのか?「点滴」「痰の吸引」レベルをしてほしいという意見が多かった。
点滴200ml/日(モルヒネ入り)のみで吸引せずで、3日後に永眠された。
ある初期研修医。
70歳代男性。心不全の急性増悪。入院後悪化。何度も入退院を繰り返す。
「味噌を隠れて食べていた。清涼飲料水を飲んでいた。」治療コンプライアンスを高める必要がある。
40歳女性。慢性膵炎、アルコール性肝硬変。腹水著明。何度も入退院を繰り返す。「酒を飲んでいない」というが、2日前まで摂取していた。退院希望で、外来通院とした。精神科受診を約束した。家族を含めて協力を求め、看護師の意見を参考にすること。
クリニカル・パール「人間、酒・セックス・お金については嘘をつく」「アルコール離脱症状に注意すること。」
ある研修医。
60歳代男性。咽頭痛、心か部痛。AMIでCABG施行後,高血圧あり。その他、たくさんの愁訴あり、入院となる。
GERD,慢性胃炎。A弁にゆうぜい。右ソケイヘルニア。上司に生物・心理・社会的アプローチを提案される。それぞれの要素について検討。うつ病はない。血圧値に対する不安が強い。家人の発言で不安が増す。血圧、手術後の経過について改めて説明を加えた。
頻回に患者と会話することで患者からの信頼度が上がった。
手術したことが今の症状に影響していないか?
クリニカル・パール「臓器の異常が見つからなければ、生物・心理・社会的アプローチをすること」
ある研修医。
40歳代男性。咽頭痛、全身倦怠感、関節痛、頭痛。発熱なし。咽頭発赤なし。リンパ節腫脹なし。血液検査をし、翌日受診。AST;105,AST:138,LDH;247.葛根湯、PL顆粒を内服中。肝障害は持続。HCV,HB,HAは陰性。EBV,CMVを依頼。サイトメガロ感染症であった。
サイトメガロ感染症のレビュー。10%に伝染性単核球症様の症状。皮疹が出ることが多い。異型リンパ球の上昇。
クリニカル・パール「免疫不全患者では、サイトメガロウイルスの再活性化に要注意」
ある研修医。
80歳代女性。血性腹水。卵巣がんと診断がついた。訪問看護に移行した。自宅で腹水排液をすることになった。全身倦怠感にステロイド、麻薬を使用。便秘に下剤を開始。第6回目の訪問で看とりとなった。
在宅ケアができ、自宅で永眠できたので十分ではないか。
その後、1年目の研修医と面談し、研修中の問題点や今後の進路についての話し合いを持った。(山本和利)
前日、旭川空港経由で東京入り。大浴場付きのビジネス・ホテルで過ごす。
8月7日、開始より2時間早く会場に到着したため、様々な人と情報交換をした。各プログラムのポスターを眺めるとそれぞれ工夫出されていて面白い。プログラム責任者の顔写真をドーンと大きく載せたものが2つ並んでアピールしていたのが印象的であった。
ポスターの掲示場所が北海道地区は入り口近くであった。私は後期研修プログラムとしてニポポを一人で紹介した。顔見知りの方や以前に私の講演を聴いたという縁で訪ねてくれた人を入れて6名ほどと話をすることができた。「総合診療とは?」「北海道で総合診療をする利点は?」などの質問にタジタジになりながら1時間半応答をした。30℃を超える酷暑の中、学生さんたちは午後の講義室に散ってゆく。掲示したポスターと余ったパンフレットを抱えて、私も家路へ向かう。
ここに集まった学生さんたちが素晴らしいジェネラリストになって地域医療で活躍することを期待したい。(山本和利)
7月20日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は札幌徳洲会病院小児科・血液部長の岡敏明先生である。テーマは「小児救急疾患」で,参加者は20数名で、学生さんが多かった。
「子どもは嘘をつかない。機嫌がよく笑顔の見られる子に、重症者はいない。」という言葉で始まった。
水分、食事摂取ができているか。3カ月未満の38.5℃以上は原則入院。「痙攣・意識障害」「嘔吐・脱水」「喘鳴、呼吸困難」を伴ったら入院。ぐったりした2歳児。Hibによる髄膜炎、敗血症であった。
様々な事例を写真で提示。「溶連菌感染の口腔所見」。溶連菌感染を疑う母親の意見をむやみに否定してはけない。「アデノウイルス3型」庭石に水をまいたような所見。「突発性発疹」。6か月から1歳児。「伝染性紅斑(リンゴ病)」「水痘」「はしか」。頬膜のコプリック斑が有名。「手足口病。(夏風邪)」。「川崎病」。イチゴ舌。不定形発疹。硬性浮腫。BCG瘢痕の発疹。
痙攣・意識障害のみかた。
有熱性が無熱性か。痙攣が30分以上続く、意識がもどらない、と痙攣重積である。Time will tell you.30分待つ。痙攣が止まっていない場合、ダイアップ座薬、アンヒバ座薬で時間稼ぎ。人を集める。ルートを確保し、ドルミカム静注。頭部CT.挿管。実際には、ほとんどが熱性痙攣である。
「軽症胃腸炎関連痙攣」という病態がある。痙攣が群発する。ジッゼパムが効かない。デグレトールが効く。
「揺さぶられっこ症候群」。身体虐待。脳CTを撮る。
消化器疾患のみかた。
「ロタウイルス、ノロウイルス」白色便。終生免疫は得られない。経口補水液(OS1)がお勧めである。母乳は禁止しない。止痢剤は使用しない。「腸重積症」。間欠的に泣く。不機嫌。血便。Target sign、蟹爪状陰影。「ヘルニア陥頓」腹部を痛がる子は鼠径部も診る。「虫垂炎」。初診医は虫垂炎ではないと言うな。翌日、再評価すること。イレウスも頭の片隅におく。虐待ということもある。
呼吸器疾患のみかた。
「気管内異物」呼吸音の左右差。気になったら、迷わずXPを。SaO2<95%は帰宅させてはいけない。喘息と思ってもXPを撮らないと「ウイルス性心筋炎」を見逃すことがある。「クループ症候群」。オットセイのような声。吸気性喘鳴。
今回は内科医への教育を目的に、道内の小児科医が協力して作成されたスライドで講演が行われた。このような講演会でたくさんの医師や学生が学ばれることを期待したい。(山本和利)
7月20日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は16名。大門伸吾医師が司会進行。初期研修医:4名。後期研修医:5名。他:7名。
研修医から振り返り5題。
ある研修医。92歳の男性。ADL低下、発熱、下痢。CHF,CKD,肺結核後遺症、アルツハイマー認知症、5回の入院歴。10日間のショートステイ。38℃の発熱、下痢。立てない。検査でBUN:115, Cre;4.5, CK;482,補液を開始。翌日、BUN:138, Cre;5.2,CK;1794,その後、症状は改善し補液は中止とした。一番の問題は「家族のケア」と思った。トイレがない2階に居住。「ネグレクト」状態であることがわかった。家族の意見がばらばらであった。話し合いを持つため家族をできるだけ集めた。施設に移すことに意見はまとまったが、その間、家でどのように対応するか。居室を1階に移す。食事・飲水の確認、エアコンを入れる。体調不良時に早めにデイケアスタッフに連絡、を提案。
「セルフ・ネグレクト」を調べた。能力がなく自分自身の世話が出来ない者の50%が家族内孤立をしている。本人の性格、心理社会的要因、親族との関係性などが原因として挙げられる。
ある研修医。90歳代男性。胃癌術後。うつと認知症との識別が難しい患者。被害妄想、罪業妄想、心気妄想があったが、SSRIが有効で食欲が出て来た。
「超高齢者に抗鬱剤治療を処方すべきかどうか?」を調べる課題が出された。
ある研修医。90歳代男性。非典型的な急性腹症。電話での内容はイレウス、穿孔の疑い。胃切除後でイレウスを繰り返している。膀胱がんの治療考慮中でもある。採血し、腹部XPでは二ボーなし。右側正中の痛み。CVAにも圧痛。WBC:8700,CRP:3.0であった。血清クレアチニン値が高いので単純CT撮影を依頼。結果は尿管破裂であった。最後は敗血症で死亡された。
クリニカル・パール:「検査閾値を下げて、よくある病気から否定してゆこう」
参加者のコメント:尿管破裂はまれ、超高齢者の急性腹痛にどう対応するか。この患者の場合、最初はイレウス、穿孔をやはり疑うべきである。高齢者は濃縮尿になりにくいから尿路結石にはなりにくい。珍しい病態を間違えても悲観する必要はない。
ある研修医。90代男性。食欲不振、倦怠感。肺結核の既往。左胸水があるが経過観察中。入院加療。左主気管支閉塞、右肺炎、無気肺。気管支鏡をやらないことにした。「生き死に」を誘導していないか、疑問をもった。
参加者コメント:結核ではないのか?胸水のADAは高くなかった。肺外結核の診断は難しい。家族も医師も不確定要素に耐えられない。主治医は家族の決断を支える覚悟が必要。
ある研修医。90歳代女性。直前まで畑仕事をしていた。腹部膨満。橋本病、ITP。皮下出血、紫斑、両側下腿浮腫。蜘蛛状血管腫なし。PLT;1万。T.bil:1.5,抗ミトコンドリア抗体陽性。腹部エコー:肝硬変所見、食道静脈瘤あり。原発性胆汁性肝硬変による腹水貯留と診断。利尿剤治療直後はよかったが、その後体調不良。患者本人は自宅へ帰ることを希望。家族は当初、転院等を拒否したが、最終的に在宅看護することになった。その後、家族に見守られ永眠された。
参加者からコメント:素晴らしい人生ではないか。
ある初期研修医。34歳男性。発熱、頭痛、咽頭痛。抗菌薬、NSAIDで対応したが、軽快しない。肺炎、感冒、尿路感染症を考えた。CRP;1.7,GOT/GPT:45/68,その後、非定型肺炎を考え、ジスロマックを処方した。腹部エコーで脾腫があり、異系リンパ球出現。伝染性単核球症(サイトメガロウイルス)であった。次の一手が浮かばなかった。
参加者からコメント:外傷性の脾臓破裂に注意。
今回は、指導医からこれまで以上に建設的なコメントが出された。次回はより質の高い報告を期待したい。(山本和利)