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ニポポ代表理事ブログ---- 総合診療医を目指す皆さん、北海道の自然を満喫しながら研修をしてみませんか。
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「死者を弔う」
 
医療に対する文化の影響を研究する分野に医療人類学というものがある。その第一人者がアーサー・クラインマンである。彼は精神科領域の研究を台湾で行い、この分野の先駆けとなった。
 
クラインマンは、著書『病いの語り』(誠信書房、1996年)の中で、「患うという経験の型はどこでも見られるが、その患うことが何を意味し、その経験をどのように生き、その経験にどうように対処し扱うかは、実に様々である。」とし、それを1)文化的表象、2)集合的経験、3)個人的経験、に区分した。
 
クラインマンは、医療人類学者としての経験・研究から、「病いの語りは、どのように人生の問題が作り出され、制御され、意味あるものにされてゆくかを教える。」と述べている。
 
患う・悩む(suffering)とは「困惑の問い」「秩序とコントロールの問い」であり、患者を医療化に向かわせる。そして、それを次の3つに区分した。こうすることで良好な患者医師関係が構築しやすくなる。

1)   病い(illness):患者独特なもの
2)   疾患(disease):治療者の視点
   • 徴候に翻訳
   • 生物医学モデル
3)   病気(sickness):社会的な関係
 
クラインマンは、「慢性の病いは、異なった個人によって生きられた経験である。」と考えている。しかしながら、医療従事者の説明モデルによって、「医学の声が生活世界の声をかき消す。」ことが多い。そこで、「患者の言うことに耳を傾けよ、患者は診断を語っているのだ。」と訴え、患者の思いを拾い上げる説明モデル(解釈モデル)を聴くことを提案した。それには、
   •  障害の原因は何か?
   •  なぜそのとき発症したのか?
   •  体への影響は?
   •  どんな経過を辿るのか?
   •  どうようにコントロールできるのか?
   •  生活への影響は?
   •  治療への希望
   •  治療への恐れ
等の質問が含まれる。これはOSCEにおける医療面接の聴取すべき項目に盛り込まれている。
 
生きている時ばかりでなく、死者にも文化は影響を与える。それがよくわかるものとして『父の初七日』(ワン・ユーリン監督、台湾、2009年)を紹介したい(日本映画では伊丹十三監督の『お葬式』がある)。
 
舞台はクラインマンが研究をした台湾の片田舎である。突然の父親の訃報を聞き、台湾で働く女性主人公が帰省する。病院で心停止しても、酸素吸入を受けながら救急車で家に運ばれ、そこで死亡宣告を受ける(台湾では家で死ぬことが最高の幸せと考えるから)。そしてその地域の伝統的な道教式の葬儀が執り行われることになる。占いで葬儀は7日後と決まり、それまでに、泣き女が出てきたり、音楽隊の演奏があったりとお祭りのような騒ぎになる。そんな中で過ごす7日間に父親と過ごした思い出が蘇る。本当に涙を流すのは4ヶ月後であった・・・。
 
ある地域の医療機関では、在宅ケアを受けてなくなられた患者宅に49日になると訪問をして、患者家族の悲嘆ケアをしているという。地域医療の現場では、その地域特有の文化を考慮しながら医療展開をするという魅力も兼ね備えている。

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